たった一度のモテ期なら。

その後、手招きされてまた立ち寄った課長席で声を潜めて聞いてみる。

「富樫課長、どんな魔法を使ったんですか?」

「魔法っていうか、色仕掛けだよ」

ふきだしてしまった。すごい、開き直ってる。

「魔法のお礼に付き合ってくれる?」

「ありがたいお誘いですがやめておきます。同期の皆に心配されてるので」

この人への対処はだんだん慣れて来た。イケメンであることを忘れればいいんだ。下々の世界を観察しに来た偉い人が、正体を隠すため若いイケメンの仮面をかぶって遊んでると思うことにしよう。



でも断ったはずなのに、再びの本社へのお供の際に、また『一人飯は寂しい』という人とカフェに入ることになった。
このくらいのお付き合いなら構いませんが、周りに誤解されるのですよ。ご自身のためにもならない気がします。

という説明を再度してみているところだ。

「別に嫌がる子に無理強いしたりしないのに、信用ないな。心配してる同期って西山?無駄にこじれてる?」

楽しげに聞かれて、今その名前出さないで欲しいとつい目を背けた。

「主に丸野綾香ですけど……綾香に何かしたんですか」

「ああ、そっちにも信用されてないのか。でもしかたないか、西山と揉めてるみたいだし今だと思ったんだけどな。セクハラ報告とかされたら困るからなあ」

「されたことあるんですか?」

「こういう状況じゃなかったけどね。それからは一応気をつけてる」

気をつけてるんですか。大丈夫なんですか。本気にしちゃう女性にはどう対処されてるんですか。といろいろ言いたい気がするがさすがに聞けない。

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