たった一度のモテ期なら。

帰り道でも、どうしようどうしよう来週からどうしようとなんのアイデアも出ない問いを繰り返していた。

家に着いてもういいかげん切り替えようとしてやっと、西山は大丈夫なのかなと思い当たる。

医務室に行けなかったなら帰ってちゃんと寝たほうがいい。それに北尾さんが言ってたみたいに後から怖くなってきたりするかもしれない。

気まずい気持ちは振り払えないまま、でも心配でメッセージを送った。

【大丈夫? 後から来るって北尾さんが言ってたから、今日はちゃんと休んでね】

一瞬で既読になり、返信が来た。

【人のこと心配してる場合か。もう家?】

【着いたところ。私は医務室にいたから大丈夫だよ】

【よく寝てたよな】

え、来てたの?寝顔を見られたらしいことにますます動揺する。今、顔を見られなくてよかった。

【俺も帰るところ。チロルチョコ食ったから元気。明日いいことありそう】

【そんなこと言ったことある?】

【こいつ俺をなんだと思ってるんだって謎だったから覚えてる】

なんだと思ってるって、頼れる同期だと思ってたんだよ。今もそう思ってるけど、それだけじゃなくて、でもここでそんなこと言えない。

まごついてる間にまたメッセージが来た。

【後から怖くなったら、何時でもいいから言えよ】

【ありがとう】

何事もなかったようなやり取りは、それで終わった。

ホッとしたような、気が抜けたような。あれも自動的になかったことになるのかな。

もう何も考えられなくて、ただぼんやりと転がってベッドの上の天井を見つめた。

< 88 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop