たった一度のモテ期なら。


それから数時間後。うとうとはしても昼間に寝ちゃったせいか眠ることはできなくて、西山はどうしてるかなって考える。

こんな堂々と連絡できることなんてない。でももう寝てるかもしれない。

スマホを見ながら迷っていたら、ブルブルと画面が震えた。

【もう寝てる?】

【起きてる。眠れないの?】

【そういうわけじゃない。考えごと】

【思い出しちゃったから? 大丈夫? よかったら話聞こうか?】

そう送ったらすぐに通話に切り替わってびっくりした。

『大丈夫じゃないって言ったらどうする?』

優しげな声で急にそんなこと聞かれて戸惑う。

「あの、だから、話したらどうかなって思ったんだけど」

ふっ、と遠くて近い笑い声が耳に届く。

『そっちはどうなんだよ、眠れないんだろ?』

「私は西山が心配だっただけ。私が巻き込んだんだから」

『俺が乗り込まなきゃ地震の前に着いてたよ。あのあとエレベーター乗った?』

「今日は一応階段で帰ったの。でも疲れちゃった」

『俺は乗ったよ』

エレベーターぐらいで得意げな口調だ。でもトラウマみたいなこと言ってたのにすごいとも言える。

『ショック療法が効いた気がする。しがみついて来る子の記憶で上書きできたかな』

さらっと出た『上書き』という言葉にぎくっとした。わざと?たまたま?

「急に無理しないほうがいいんじゃない?」

『俺より影森のほうが無理してないか心配。大丈夫か会って確かめたいんだけど、明日空いてる?』

「……うん」

明日の土曜日に会う約束をして、通話を切った。

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