たった一度のモテ期なら。
映画の後にぶらぶらして、いつものイングリッシュパブの系列店を見つけて入る。2人用の小さな丸テーブルはフィッシュフライをつまむ距離がいつもより近くて、なんだか変にドキドキする。

「今日のみたいな映画を見てから原作を読むと、すごく理解が深まって面白いことがあるのね。でも逆だと時々、あの名シーンをカットするなんてありえないとか批判的になっちゃうの」

「だったら自分で書きたいな、とか?」

「脚本じゃなくて、もとになる冒険物語のほうを書こうとしてて。全然、ぜんぜんうまく行ってないけど、いつかちゃんと書けたらいいなって」

ふーん、いいなそういうの、と西山は私の話を聞いてくれる。

少し酔ってる目をしてるからかな。すごく優しいまなざしに見えて、態度もいつもとちょっと違う気がして。そのまま何も言わずにグラスをもてあそぶ指が気になって、慌てて話をつなごうとした。

「小林くんは大学の研究会で脚本書き直しとかしてたって」

と自分で小林くんのことが口をついたくせに、キスと上書きのことを思い出してしまって固まる。

「コバ?」

西山もそれだけ無表情に聞いただけで、まだ半分ぐらいあるグラスを持ちあげると一気に飲み干した。


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