たった一度のモテ期なら。
夜風はまだ少し肌寒いけれど、駅へと向かう大きな公園内には連れ立って歩くカップルがたくさんいた。

お店を出てから何気なくつながれた手が気になって、でも全然気にしてないふりで歩く。

今日だけなのにこういうのやりすぎだよ。ってキスして欲しがってたくせにそんなこと言える立場でもない。

「エレベーターは結局乗ってないな」

「そうだね。普段って全然乗らないの?」

「いや、営業先でとか普通に乗る。避けられるときは避けるぐらい。影森にそう思われてるほうが意外」

「西山のこと、よく見てるから」

昨日言えなかったことを言ってみたら西山は黙ってしまった。もしかして今ちゃんと告白するところかなって考えたところで、つながれた手を強く握られた。

「ちょっとこっち」

そのまま遊歩道を外れ、大きな木の裏側に引っ張りこまれる。

「エレベーターじゃないけど、昨日のやり直ししていい?」

木の幹に押し付けられるような形で、聞かれる。いきなりのことに答えられないでいたら、耳元で畳みかけてくる。

「嫌だったら、今言えよ」



「あの、でも、人が」

すぐそこを人が歩いてるよ。こんなところでキスできないよ。

「2人きりに、なれるところがいい」

一瞬の間の後、いいよ、と西山は片手でスマホを操作し始めた。それほどかからずに、取れた、とまた手を引いて歩道を歩き始める。
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