たった一度のモテ期なら。
そのまま言葉少なに夜道を歩いて行った。

どこに行くのか聞かなくても、そういうことなのかなって気が付いていて。私から誘ったってことだよね、と思っていた。

そういうつもりじゃなかったような、でもどこかで期待していたような不思議な気持ちで歩いた。

今日だけのはずなのにそんなことしていいのかなって思いながら、私はそれでもかまわないんだなぁって気づく。もうちょっとだけでもいいから、一緒にいられるなら何でもいいや。




駅に近い大きなホテルのフロントの脇。故障なんてしなそうな重厚なエレベーターに乗り込んだのは私達2人だけだった。

「怖い?」

「ううん、全然。西山がいるし」

「エレベーターのことだけじゃないんだけどな」

うん、わかってるけど。怖くなんかないし、嫌でもないし、とにかく今、西山がいてくれればなんでもいいの。



「昨日の、もう一回言って」

部屋に入ってすぐ、さっきよりずっと甘くなった声で言われた。あの時よりもずっと恥ずかしいけれど、それを押し隠して答える。

「上書きして?」

言ったとたんに今度はためらいなく唇が重ねられた。ねえ、そんなキスじゃなかったよ、もっとほんのちょっと触れるだけだった。
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