記憶を失くした総長

自販機は外来入り口のすぐ近くのスペースにあった。
財布から小銭を取り出し、レモンティーと同じ段のミネラルウォーターを買う。
同じものをもう1つ購入し大和に渡そうとするが受け取らないので、無理やり手渡した。
さっきのお礼だと伝えると、必要ないというようにため息をついた後、キャップを空け水を飲み込む。

俺はソファーに腰掛け首の後ろを冷やす。
柔らかい素材のペットボトルは広い範囲を冷やしてくれて熱い体を冷ましてくれた。
立っていた大和も隣に座った。

___静かだ。

不意にそう思った。

周囲の音に集中すれば遠くの患者の名を呼ぶ声、スリッパの擦られる音、隣に座る大和の心音まで聴こえている気がする。

__それは、自分の心臓の音なのだが。

4月に入り、暖かくなると思ったら昨日の朝はとても冷え、昼を過ぎれば夏のように暑くなり、天候が安定していない。

___まるで俺の心のよう。

何を言ってるんだと心の中で自嘲し、首に当てていたペットボトルの水を3分の1ほど飲み込んだ。
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