寵愛命令～強引社長はウブな秘書を所望する～

御曹司の恩返し

世の中、悪いことは重なるようにできている気がする。

例えば、天気予報を信用して傘を持たずに家を出れば、見事なまでの大雨に見舞われたり。
例えば、その大雨の中を歩いている最中に脇を通った車が水たまりをはね、それを全身で浴びてしまったり。
例えば、大急ぎで帰ったアパートでシャワーを浴びようとしたらお湯が出なかったり。

そんな不運の数々は、今まさに私に起きていることだった。

私は水城茜（みずき　あかね）、二十七歳。
小ぶりな二重の目、もう少し高かったら……と鏡を見るたびに思う鼻、肩甲骨まであるストレートの黒髪はカラーリングをしたことすらない。
自慢できるのはふっくらとした唇くらいという、特徴のない平凡な顔立ちの私は、まるでアンラッキーを吸い寄せる力があるかのごとき人生を歩んでいる。

重くなったリクルートスーツをよくやく脱いで裸になった私には、シャワーヘッドから氷のように冷たい水が降り注いでいた。


「――ックシュン！　クシュン！」


あまりの寒さに私の口からくしゃみが連発で飛び出す。
季節は真冬なのだから、それもそのはず。
今は一月中旬だ。