寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「上手ではないですが……」
クロールと背泳ぎくらいしかできないけれど。
「そう。それじゃ好きなように体をほぐすといい」
そう言うと風見さんは誰もいないプールに美しい弧を描いて飛びこんだ。
静かなプールにさざ波が立つ。
一旦深く沈んだ風見さんはゆっくりと水面に浮上すると、綺麗なフォームでゆったりとクロールを始めた。
機械仕掛けのように同じリズムで腕が上がる。
あまりにも美しい姿で休むことなく泳ぎ続ける彼から目を離せない。
私は両足をいたずらにプールに入れたまま、ただ黙って風見さんを見ていた。
何往復か泳いだ彼が私の元へやってくる。
「泳がないのか?」
「なんだか自信喪失です。風見さんがあんまり上手だから」
「別に誰も見ていないんだから、どう泳いだっていいだろう」
「それはそうなんですけど……」
私が一番見られたくないのは、ほかでもなく風見さんだ。