寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
風見さんはイルカのように体をくねらせたかと思えば、隣のレーンへ移って再びゆったりと泳ぎ始めた。
それを追うようにして私も水に体を沈め、懸命に手足を伸ばす。
自分の息づかいと水音しか聞こえない。
水の中は穏やかでとても静かだった。
手がプールサイドに当たったところで水から顔を上げる。
咄嗟に見た隣のレーンには、風見さんがまだ到着していなかった。
……嘘、私が勝ったの?
ところが、振り返ってみれば隣のレーンどころか、風見さんの姿がどこにも見えない。
え……どこに行ったの……?
プールはしんと静まり返っていた。
「風見さん?」
小さくそう呼んだときだった。
私の目の前の水がなんの前触れもなくいきなり膨れ上がる。
そこから風見さんが浮かび上がってきたものだから、驚いて肩がビクンと跳ね上がった。
突然のできごとに言葉を発せない。
胸を抑えたまま硬直している私を見て、風見さんは「驚いた?」とおどけた。