寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
私だって、誰彼かまわず気を許しているわけじゃない。
風見さんが目を見開き、口の端で微笑んだ。
「ともかく茜は俺と寺内さんの車で出勤すること。帰りも同様だ。俺が外出や遅くなるときは、先に寺内さんに送ってもらうようにする」
「ですが……」
それでは会社の人たちの目についてしまう。
秘書の私が社長の車で通勤していたら、余計な噂を立てられて風見さんが困るんじゃないのかな。
私の頭の中を見透かしたように、風見さんが「人の目を気にする必要はない」と言う。
「そういうわけにはいきません」
私たちはあくまでもお試しの恋人。
一方的に好意を寄せているのは私だけだし、社長には来たるべきときには釣り合いのとれた女性との結婚が待っているだろうから。
私とのことで社長の名誉に傷をつけたくはない。
「意思表示をしっかりしろとおっしゃったのは、風見さんです」
私がきっぱりとそう言うと、風見さんは鼻を鳴らして笑った。
「そうだったな。確かにそう言ったのは俺だ。だが、この話は別問題だ。体面的には、社長の自宅に迎えに行くことを秘書の職務のひとつだとすればいい」
そうして風見さんは、一緒に車で通勤することを断固として決めたのだった。