寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「こっちは大丈夫だから下がりなさい」
「……大変失礼いたしました」
風見さんに言われ、しょんぼりと退室する。
昨日、鏑木物産の会長に褒められたことで、多少奢りがあったのかもしれない。
ため息を吐きながら役員室フロアにあるトイレから出ると、琢磨さんが入れ違いでトイレへ入るところだった。
「茜ちゃん、こんにちは」
急にちゃん付けで呼ばれて意表を突かれる。
「お、お疲れ様です……」
「なんか浮かない顔をしてるけど?」
「……そうですか?」
頬に手を当て慌てて笑顔を作ると、「兄貴となにかあった?」と琢磨さんが私の顔を覗き込むものだから気が動転してしまった。
その質問が仕事とは別のことに直結し、一瞬のうちに風見さんとのあれこれが蘇ったせいだ。
「い、いえっ、なにもないです」
自分でもわかるほどに動揺する。