寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
午後六時。
退勤時間を三十分過ぎた社長室で、私は自分の席にじっと座っていた。
琢磨さんはきっと私をからかっただけだろう。
彼が相手にするのは、華やかなタイプの女性ばかりだと沙智さんも言っていたし。
そんな人が私を本気で誘うわけがない。
風見さんは私に『必ず寺内さんの車で帰るように』と言い置き、予定通りミヤコの社長に会うために一時間ほど前に会社を出ていた。もうとっくに足立社長と会っている時間だろう。
腕時計を見ると、午後六時五分。
いつまでもここにこうしているわけにはいかない。
寺内さんをいつまでも下に待たせるのも失礼だし、万が一にも琢磨さんが私のことを待っていたとしても、三十分以上も待たされれば帰っただろう。
女性に不自由していない人が、そんなに待つはずもない。
例えば、社内からたまたま出てきた女子社員を捕まえて、今頃その彼女と一緒ということも考えられる。
きっとそうだと思うと、急に気持ちが軽くなる。
ところが、軽やかな気分でエレベーターから降りてみれば、ビルのエントランスの真ん前に白い高級車が横づけされているのが見えた。嫌な予感に包まれながら足を進める。