寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
私の住むアパートは築三十年のかろうじて鉄骨でできた二階建てで、いつ倒壊してもおかしくないようなおんぼろアパート。
その一階の角に私の部屋はある。
畳敷きの六畳の部屋に三畳ほどのキッチン、そしてユニットバス。これで家賃は四万円。
良い点を挙げるとするならば、駅から歩いて三分という利便性に富んでいる上、周りは高層マンションが建ち並ぶ高級住宅街という立地くらいだろうか。
このアパートだけ、移りゆく時代の中ポツンと取り残されているような感覚だ。
そのせいで景観を損なうからと、近隣の住民から取り壊しの要請があるらしい。
ところが全部で十ある部屋は常に埋まっていて、そう簡単に取り壊せない状況。
おんぼろとは言え都心の駅近で四万円という破格の家賃のため、空きが出れば即埋まるそうだ。
そんなアパートだからお湯が出ないことは日常茶飯事。
だからといって、なにも今出なくなることはないのになぁと呑気に考えていられるのは、私が災いに慣れっこだからなのかもしれない。
さすがに今夜はこのまま諦めるわけにはいかないと、仕方なしに冷水のままシャンプーを泡立てる。
浴びたのは雨だけじゃなく、道路にたまった薄汚れた水なのだから。
そうして歯をガチガチと言わせながら、どうにかこうにか汚れた体を洗い流した。