寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
昨夜のうちに雪が降ったようだ。
翌日の早朝、理玖さんの腕に包まれていたベッドからそっと這い出し、降り立った庭は白く染まっていた。
ところどころに木の枝が顔を覗かせているものの、ほぼ一面が真っ白だ。
浴衣の上に厚手の茶羽織を着て、胸元までかき合わせる。
「冷たっ……」
素足に草履で一歩踏み出すと、すぐに足先が雪に埋もれた。
三センチは積もっているだろう。
足が濡れるのも厭わず、キンと冷えた朝の清々しい空気に包まれ雪の中を歩く。
キュッキュと鳴く雪がなんだか楽しくて、あちらこちらに足跡を付けて回っていると、「茜」と理玖さんの声が聞こえた。
「起きたらいないから、どこへ行ったかと思ったよ」
私のほうへ向かいながら理玖さんが目を細める。
「ごめんなさい」
「雪が降ったんだな。庭じゅう茜の足跡だらけじゃないか」