寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

今度は私が理玖さんから言葉を奪った。
もうそれしかなかった。
この状況を打破するには、足立社長の提案を受ける以外にないのだ。


「理玖さんは、美咲さんと結婚してください」


早口で言い放った直後、私は瞬きの間に理玖さんに抱きしめられていた。


「は、離してください……!」

「今言った言葉を取り消せ」


どんどんきつくなる腕の力。
理玖さんの声が耳の奥に突き刺さる。


「取り消せ!」

「取り消しません」


一大決心をしたのだから私も譲れない。


「理玖さんには会社を守る義務があるんです。数百人の従業員の人生を守れるのは、理玖さんしかいないんです」


職を失うつらさは誰よりもわかっているから、それを引き起こすような真似を理玖さんにはしてほしくない。


「だから取り消せません」


私がここまで自分の意見をはっきりと主張したのは初めてかもしれない。

理玖さんの腕の力が弱まった隙を突き、彼の胸を力任せに押しやる。ぐらついた足を踏ん張り、理玖さんから離れた。


「理玖さんを返品します。今までありがとうございました」


唇が震えているのは自分でもわかった。

頭を深く下げ、足早に社長室から出る。
用意していたバッグを抱え、足をもつらせながらエレベーターに飛び乗った。

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