寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
幸せは自分の手で
「お願いします! すぐに入居可能な格安物件はほかにないでしょうか!」
荷物を抱えたまま、腰を九十度に折り曲げる。
私が頭を下げた先には、人の好いおじいさんがニコニコと笑っていた。おんぼろアパートの大家さんだ。
理玖さんのマンションから歩いて十分のところに、その大家さんの自宅はある。
あのアパートを所有しているとは思えないほど、とても立派な屋敷だ。
突然引っ越すと告げたかと思えば、今度はまた住まわせろとやってくる。
笑顔の下では、とんだわがまま娘だと思っているに違いない。
「本当に来おった」
「……はい?」
「いや、水城さん、あなたはラッキーじゃな」
私のどこがどうラッキーなんだろう。
大家さんはあごひげを指先で弄びながら微笑んだ。
「水城さんが出ていった部屋は、まだ空いたまんまじゃ」
「本当ですか!?」