寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
応答をタップすると、開口一番に沙智さんが尋ねる。
理玖さんは、私の退職願を受理してくれたみたいだ。これできっと彼は、美咲さんとの結婚を決意するだろう。
それが会社を救う、ただひとつの方法だから。
「そうするのが一番だと思ったんです。ミヤコ関連の会社がこぞって契約を打ち切ったらオリオンコミュニケーションズは終わりですよね」
『そんなのわからないじゃない』
「わからなくないです。これはまだ始まりかもしれません。足立社長がもっと別の手を使う可能性だってありますから。だから社長とも別れなきゃって」
私がそこまで言うと、沙智さんは電話の向こうで押し黙ってしまった。
入社して二ヶ月ちょっとで退職なんて堪え性のない人物だと思われて、次の就活にも響くかな。
そんなことを呑気に考えられる私は、結構平気みたいだ。
それもこれもきっと、今までの不運で耐性がついたのだろう。
『……社長、すごく落ち込んでたよ』
「それは今だけです。少し経てば、すぐに元気になれますから」