寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
私がいた記憶もすぐに薄れていくはず。
『そんなことないよ……』
沙智さんの声がどんどん小さくなっていく。
「急に辞めて無責任なことをしてごめんなさい」
できることなら理玖さんのそばでもっと働いていたかった。
でも、そもそも私に幸せは似合わない。
長年染み付いた不幸癖は、簡単に抜けきるはずがないのだ。
私にはこのおんぼろアパートでの生活が性に合っている。ここでまた倹約生活をして、一から頑張っていこう。
『茜のことだから、社長のところはもう出ちゃったんでしょ? 住むところは?』
沙智さんときたら察しがいい。
「大丈夫です」
『うちにおいでよ』
沙智さんにまで迷惑をかけるわけにはいかない。それには丁寧に断りを入れた。
そして、まだ不服が残っている様子の沙智さんは、『また連絡するから』と言って電話を切ったのだった。