寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
理玖さんが初めて私を抱いた夜のことを思い出した。
びくびくしていた私に理玖さんは『俺のことを怖がらないで』と泣きそうな顔で訴えたのだ。
あれは、母親の愛情に飢えた子ども時代を過ごしたトラウマだったのかもしれない。
『弁当を作ったりする家庭的な茜ちゃんに惹かれたのもわかる。だから、兄貴には幸せになってほしいんだ。茜ちゃんにちょっかいを出してた俺が言うセリフじゃないかもしれないけど』
そう言って琢磨さんは明るく笑い飛ばしてから、『だから、茜ちゃんに兄貴のことを頼みたいんだ。できるよね?』と急に真剣な声色で私に尋ねた。
理玖さんが今でも私を望んでくれているなら。
――ううん、違う。
私が、自分の意思で理玖さんを望んでいる。
「……はい」
きっぱりと返事をした。
『茜ちゃん、パスポートは?』
唐突に琢磨さんに問われて面食らう。