寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

「あ、ちょっと琢磨さん!」


呼び止めたもののすでに通話は切れていた。
突然ニューヨークへ行けと言われても……。

窓の外を茫然と眺める。

『兄貴を信じてやれ』という琢磨さんの言葉が、頭の中をぐるぐると旋回する。
もしもまだ間に合うのなら。
ひとりで勝手に先走って転んでいる私を理玖さんがまだ許してくれるのなら。

急いで身支度を整え、キャリーバッグへ荷物を詰めていく。
慌ててアパートを飛び出すと、私に気づいた寺内さんがいつもの穏やかな表情で運転席から降り立った。


「お久しぶりでございます」

「あの……」

「すべて琢磨様から伺っております」


寺内さんの運転で車は快調に走り続ける。
そうして無事に空港に辿り着くと、「これを」と寺内さんが私に渡してくれたのは航空券だった。


「JFK空港にニューヨーク事業所の池上という者が来る手はずになっています」

「そうなんですか。ありがとうございます」

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