寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
飛行機に乗ること約十二時間。
池上さんという人を探して、到着ゲートをくぐる。
耳に入る案内は当然ながらすべて英語で、周りは外国の人ばかり。日本から遠く離れたところに来たのだと、そこで初めて実感した。
焦っていたせいで、池上さんが男性か女性かすら聞きそびれてしまった。
到着を待っている人の列に端から端まで目をやる。
その中に“水城茜さん”と書いた紙を持って立っている小柄で黒縁眼鏡をかけた男の人を見つけた。
早足でその人の前へ行き、「池上さんですか?」と尋ねると、「水城茜さんですね?」とその人の顔が綻ぶ。
「長旅お疲れ様でした」
「ありがとうございます。あの、風見さんはどうされているんですか?」
「社内で商談中です。副社長より、社のほうへご案内するようにとのことでしたので」
池上さんの運転する車に乗せてもらい、ニューヨーク事業所を目指す。
日本でも同じ空が広がっているのに、やけに広く感じるのは広大な土地のせいなのか。
池上さんは運転に集中しているようで、会話はほとんどない。