寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「もうこれで十分です。洋服もいただいてしまったし、こんな高級フレンチまで……。本当にありがとうございます」
身に余ることをされてしまった。
なんだかここで運を一気に使い果たしてしまった気がする。
「いや、それでは俺が困るんだ」
風見さんが真っ直ぐな眼差しで私を見る。
「突然部屋に押しかけた見ず知らずの俺を朝まで置いてくれた上、朝食までごちそうになったんだから」
「いえ、ですが……」
朝食といったって五十円のちくわ丼だし、今目の前に並んでいる料理とは雲泥の差。
思い出したら余計に恥ずかしくなってきた。
「受けた恩は返す主義でこれまで生きてきた」
「もう本当に大丈夫ですから」
別世界に住む人と素敵な服を着て高級フレンチを食べた。それだけで、これまでの不運が遠くに霞んでしまうくらい。