寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
その中のひとつの部屋に理玖さんの姿を発見して足を止めた。
三十代くらいの金髪の男性と真剣な表情でノートパソコンを覗いている。
完全に仕切られているため声はまったく聞こえないけれど、身振り手振りで話す様子からかなり熱い議論が繰り広げられていそうだった。
久しぶりに彼の顔を見て胸が高鳴る。
駆け寄りたい衝動をなんとかこらえた。
「水城さん、こちらです」
先を歩いていた池上さんが振り返って私を呼ぶ。
「申し訳ありません、ここにいてはだめでしょうか」
ダメ元で聞いてみる。
できることなら、彼の姿が見えるところで待っていたい。
池上さんは少し考えるようにしてから、「では、こちらへお掛けになっていてください」と衝立で仕切られた小さな応接スペースへ私を案内してくれた。
ここからなら商談中の理玖さんがよく見える。
「わがままを言って申し訳ありません」