寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
そう言って頭を下げると、池上さんは「私は仕事に戻りますので」と私の前から姿を消した。
たったの三週間会えなかっただけなのに、理玖さんの顔がひどく懐かしい。
ものすごく長い間、会っていなかったような感覚だった。
こうしてガラス越しに見つめているだけで、愛しさがあとからあとから溢れてくる。
どのくらい経ったころか、飽きることなく商談中の理玖さんを見ている私の前で、不意にふたりは立ち上がり硬い握手を交わした。話がうまくまとまったような様子だ。
やっと理玖さんと話せる。
その場に立ち上がり、開け放たれたドアから出てきた理玖さんに駆け寄ろうとしたときだった。
理玖さんは私を見て驚きに目を見開いたあと、慌てたように私から目を逸らし、立ち去ってしまったのだ。
軽く上げた手も、顔に浮かべた私の笑みも凍りつく。
どういうことなのかわからず、私はその場で呆けたように立ち尽くした。
理玖さんは私に来てほしくなかったのかもしれない。
今さらなにをしに来たのかと。
理玖さんが私のことを待ってくれているのならいうのは、私の思い上がりだったのかもしれない。
茫然としていると、池上さんが再び私の前に姿を現した。