寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
そのために私はニューヨークまでやって来たのだから。
静かに止まったエレベーターのドアが開いた。誰もいない。なんの音も聞こえない。
「理玖さん……?」
呼びかけてみたものの応えてくれる理玖さんの姿もない。
おどおどしながら数歩行くとエスカレーターがあり、とりあえずそれに乗った。
ゆっくり流れるエスカレーターにも誰もいなくて、私以外の人の存在が消えてしまったよう。
どうなるのかわからないまま身を任せていると、エスカレーターの先に人影が見えた。
その姿を見て胸が詰まり、声が喉の奥から出てこない。
死刑宣告を受けるかのように、緊張で心臓が痛いくらいだった。
エスカレーターを降りると同時に理玖さんが私を抱きすくめる。
事態が飲み込めなかった。
「……理玖さん?」
どうして――?
オフィスで私を無視した彼とは思えない対応に、頭の中が整理できない。
「なんで茜がニューヨークにいるんだ」