寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

◇◇◇

引っ越しは翌日行なわれた。
六畳一間のアパートにある荷物なんてたかが知れているにもかかわらず、風見さんは手伝うと言ってくれ、午前九時に私のアパートのチャイムを鳴らした。


「おはよう」


昨日と違わず、自信に満ちたオーラに圧倒されてしまった。この部屋に不釣り合いの人だとつくづく思う。

風見さんは昨夜のようなスーツではなく、濃紺でVネックのニットにベージュのスキニーパンツというカジュアルなスタイルだった。そんな格好であっても品があって、セレブに見えることに変わりはない。


「おはようございます。仕事は本当に大丈夫なんでしょうか?」

「午前中は重要な予定がないから構わない」


きっぱりと言いながら、風見さんは「上がるよ」と靴を脱いだ。

電化製品は必要なし。家具と呼べるものはベッドとローテーブル、それからテレビを置いているキャビネットだけ。
それも風見さんの部屋には用意されているので、粗大ごみとして出す手配だけだ。
数少ない食器も必要ないと言われたため、処分することになった。

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