寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
――な、なに!?
一瞬で全身が硬直した。
息を殺して静かになったドアを見つめる。
気のせい……? お隣さんが部屋を間違えたのかな……?
まだドキドキする胸を抑えつつ、毛布を肩から被ったままドアへそろりそろりと近づく。
目を細めてドアスコープを覗くと、外は真っ暗で闇しか見えない。
やっぱり誰かが部屋を間違えただけみたいだ。
ホッとしつつ、念のための確認とドアを薄っすらと開けたときだった。
視野の下のほうで黒い塊がのっそりと動き始めたかと思えば、それが目線より高くなる。
呆気に取られているうちにドアの隙間から中へと入り込んできたかと思ったら、その物体は狭いキッチンでパタンと倒れた。
「――ひゃっ!」
思わず悲鳴に近い声が漏れる。
人だった。しかも男の人。
――ど、どういうこと!?
口に手を当て、倒れた男の人とドアとの間に視線を行き来させる。
しかし、そうしたところでこの事態がどういうことなのか判明するはずもない。
なにがなんだかわからなかった。