寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「これだけ?」
キャリーバッグひとつ分と調理器具をまとめた段ボールひと箱だけとなった私の荷物を見て、風見さんが目を瞬かせる。
「はい。物はあまり増やさないようにしていたので」
買う余裕がなかったといったほうが正しいかもしれない。
そうして大学を卒業してから五年間暮らした部屋に別れを告げ、そこから徒歩一分の高級マンションが新しい私の住処だ。
まさか二軒隣に建つ、“超”が付くほどの豪華マンションに暮らすことになろうとは思いもしなかった。
いつも羨ましげに眺めていた物件に、大きなバッグを従えて足を踏み入れたときの高揚感といったらない。
エントランスにはコンシェルジュまであり、ホテルのフロントのように二十四時間人がいる。
吹き抜けになった窓からは燦々と光が降り注ぎ、ここが都会とは思えない清涼感で満ちていた。そこから見通せる中庭は手入れが行き届いていて、そこだけで絵だと見まがうような美しさ。
「すごいですね……」
目を奪われて、思わず立ち止まった。