寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「毎日見ていれば慣れるよ」
そうは言うけれど、贅沢の限りを尽くしたような場所に一般庶民の底辺にいたような私が慣れるはずがない。
いつまでも呆けたように見ている私の肩を風見さんはちょんと突いた。
「行こう」
「はい」
その背中を追いかけ、エントランスの右手にあるエレベーターに乗り込むと、風見さんは運んでくれていた段ボールを足元に置いた。
すぐに視界が開け、眼下に街が広がっていく。
真冬の昼間。済み切った空気のせいか、遠くまで見渡せて爽快だ。
窓にへばりつくようにして眺める。
「ほんとにすごい」
自分の語彙のなさを痛感してしまう。
私ときたら、さっきから『すごい』しか言っていない。
「ニューヨークのはまた格別だ」
「ニューヨークにいらしたんですか」
振り返ると、風見さんは頷いた。