寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
髪はおだんごでまとめて清潔感もあった。
同じスーツでも、私とはまるで印象が違う。
一流企業の女子社員とはこういう人のことを言うのだろう。
リクルートスーツの上、長い髪は一本縛りという自分の格好がものすごく恥ずかしい。
「申し訳ありません。人事部長の宮原はただいま打ち合わせ中でございまして。私は秘書室の田丸沙智(たまる さち)です」
人事部の人かと思いきや、秘書室の人だとは。
「水城茜と申します」
頭を腰の高さまで下げると、田丸さんはクスッと笑いながら「こちらです」とオフィスゲートを抜けてエレベーターへと案内してくれた。
二十五階まで一気に上がり通されたのは小さな応接室のような部屋で、しばらくすると三十代くらいの背の高い男性が現れた。
アップバングにした栗色の髪、小鹿のように穏やかな目元が柔らかな面差しを印象づける。風格からして役職者だろう。
背筋を伸ばし、手を膝の上に揃える。
緊張から鼓動が速まった。
「風見琢磨(かざみ たくま)です」