寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

二十五階はPタイルだったが、役員室というだけあって三十階のフロアは絨毯が敷かれている。毛足の短いベージュの絨毯が敷かれているだけで、急に異空間に来てしまったかのように感じた。
通路に余計な装飾品はまったく置かれておらず、シンプルでさっぱりしている。
いくつかあるドアはどれも重厚な造りだ。

呆けたように歩いていると、田丸さんは一番手前のドアの前で立ち止まった。


「こちらは村野専務の部屋です」


ノックをすると、すぐに秘書が顔を出した。


「今日から社長秘書として働いてくださることになった水城さんです」


うしろに控えている私を田丸さんが「どうぞ」と促す。


「水城茜と申します。ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、精一杯がんばりますのでよろしくお願いいたします」


頭を下げると、「こちらこそよろしくね」とにこやかに返してくれた。

田丸さんによると、秘書はそれぞれの取締役の部屋にデスクがあるそうで、特別に“秘書室”という部屋は設けられていないらしい。

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