寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
私と視線の合った風見さんの目が点になり、口は半開きになった。
風見さんのスーツ姿は何度か見ているけれど、実際にオフィスで見るとまた雰囲気が違う。洗練されたエリート社長そのものだ。
滑らかそうなダークグレーのスーツは、きっとイタリアの高級ブランドだろう。
片づけをしているときに見たクローゼットには、同じブランドのスーツがずらりと並んでいたから。
「水城茜と申します。不慣れなためご迷惑をおかけすることと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
自分でも驚くほど早口で頭を下げた。
「……社長? どうかされましたか?」
田丸さんが不審そうに問いかける。
「あ、いや……なんでもない」
風見さんはそう言って手をひらりと振り、「社長の……風見です」と名乗った。
状況が掴みきれていないといった表情だ。
田丸さんが退室すると、風見さんはふぅと大きく息を吐き、強張っていたのか体をほぐすように右肩を回した。