寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
膝を抱えてじっと見ると、仰向けになったせいでその人の顔がよく見えた。
少し癖のある黒髪は、ついさっきまでの雨のせいか湿気で暴発しているようだ。
横から見下ろす格好のためか、鼻の高さが際立っている。
羨ましいほどに通った鼻梁、形の整った薄い唇。睫毛は女子の私が悔しいくらいに長いし、身なりもしっかりとしている。
めくれたスーツのジャケットのタグには、私でも知っているイタリアのブランド名が書かれていた。
この人はいったいなんなんだろう。
私とは真逆の世界にいる人にしか見えない。
そんな人がどうしてこのおんぼろアパートに?
考えたところでわかるはずもなかった。