寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
小さな物音が聞こえたような気がした。
目を瞑ったまままどろんでいた私は、あるところでふっと意識がクリアになる。
――そうだ! 侵入者!
ハッとして目を開ける。
いつの間にか眠ってしまったようで、私もキッチンの床の上に横になっていることに気づいた。変な寝方をしていたのか、勢いよく起き上がると同時に首に痛みが走る。
部屋はすっかり明るくなっていた。
「誰?……ここは?」
低く艶のある声だった。
私の目の前に起き上がっていた男の人が部屋と私を凝視する。
眉間には深い皺が刻まれ、険しい表情をしながらも整った顔立ちがよくわかった。
昨夜はわからなかったけれど、目は涼しげな切れ長だ。眉と目の距離が近いほど整った顔だと聞いたことがあるけれど、目の前の人はまさしくその通りだった。
「……キミ、誰?」
その人がもう一度繰り返す。訝しげにひそめた眉は美しいアーチを描いていた。
「そ、それはこっちが聞きたいことです」