【3/9】
「まず、俺は伊原を嫌いにならないよ。」
ホッと胸を撫で下ろした。
「あと、俺のことを好きになってくれてありがとう。」
一つずつ、慎重に丁寧に紡がれる言葉。
「でも残念なことに 俺は常に先生じゃないんだ。
家に帰れば、酒とタバコにまみれて自堕落な生活をしているし 部屋だって汚い。
本当、ただのどこにでもいるような駄目人間なんだ。」
「それでも、」
「うん、それでもいいなら 伊原の気持ちに応えたい。」
私は思わず顔を上げて、その人の顔を確認する。
先ほどまでの困った顔とは打って変わって、柔らかく微笑んでいる。
「いいです!全然!そんなところも含めて愛してみせます!」
彼はもう一度、私に向けて その両腕を広げた。
今度は迷いなく、その腕の中に飛び込んだ。
「私、ちゃんと言えて良かった。」
「うん、ちゃんと想いを伝えてくれてありがとう。」
少し早い心の音に、私は顔を上げる。
「もしかして、」
「うるさいよ、そういうことには気付かなくていいからね。」
そう言って 少し顔を赤らめた彼は普段より幼く見えた。