カフェの人々
私はわざと大きな音をたてて新聞を折りたたむ。
「ナース?はたちはたち。焦ってないから楽でいいよ。歳食ってるといろいろ面倒臭せーからさ」
思わずふり返る。
おまえみたいな程度の低い男が真由子に触れられただけでも幸せと思え。
ヤツは私の視線に気づくことなくしゃべり続ける。
向き直るとポタリと新聞に丸い染みができる。
「仕方なくなんてない」
悔しくて涙がでた。
私の真由子を返せ。
私の自慢だった真由子。
ずっと憧れていた。
私の憧憬を打ち砕きやがったヤツ。
それなりの男だったらまだしも、あんな、あんな、あんな男に。
「仕方なくなんてない」
男に向かって大声で叫びたい言葉は、ぽとりと新聞の上に落ちて転がった。