カフェの人々
その妻の目が大きく見開いた。
クロワッサンをつまんでいた手を急いでおしぼりで拭くとハンドバックからメモ帳とペンを取り出す。
外出時、周りの人に聞かれたくない内容を話す時の方法だ。
家だったら大声で私の耳元で叫べばすむことなのだが。
妻はペンを走らせたメモ帳を私の前に突き出した。
『あの男の声、振り込め詐欺の男の声にそっくり』
すぐに警察にと思ったが妻は確信がないと言う。
よく聞こえないが男はイヤホンみたいなものを装着し口がバクパクしているから、誰かとしゃべっているのだろう。
妻は筆談でもう少し男の会話を聞いてみると言ってきた。
私は浅くうなずき男を盗み見る。
耳は遠いが遠くはよく見える。