カフェの人々
303号室の藤木。
毎晩のように大音量で音楽をかけ、今みたいな大声でしゃべり続け、そのせいで俺は勉強に集中できなかった。
三度目の司法試験に落ち夢破れたあの日、俺は藤木の部屋に殴り込みをかけた。
藤木は居なかった。
部屋はもぬけの殻だった。
藤木は引っ越ししてしまっていたのだ。
その夜から藤木に見立てたワラ人形を部屋の壁に打ちつける毎日が始まった。
今思えば俺は狂いかけていた。
もがき苦しみ、ようやく自分の人生や人を呪っても仕方ないと悟り、俺は新たな夢に向かって歩み始めたというのに。
初めてみる藤木の顔。
藤木の声と生活音しか聞いたことがなかった。
こんな顔をしていたのか、コイツがコイツがコイツが。