カフェの人々
部屋の壁の釘跡が瞼の裏に浮かぶ。
心の隅に追いやっていたどす黒い感情が墨汁を水に落とすように広がる。
「今度うち来いよ、朝まで吞み明かそうぜ。ああ、うん、うん、マジかっ」
藤木はゲラゲラと笑い声をあげる。
何度も聞いたことのある笑い声。
また俺の夢の邪魔をしようとするのか、藤木!
あれ、なんだか目が霞む。
手元のテキストの文字に目を凝らす。
六法全書
あれ、そんなはずはない、俺は今。
今?今ここはどこだ?カフェのはずだ、俺の部屋じゃない。
じゃないのになんで藤木の声が聞こえるんだ。
俺はまた狂いかける。