カフェの人々
男は店の入り口に置いたビニール袋など見えてないのか、傘の先端から水滴を床に落としながらレジの前に立った。
僕の体が一瞬硬直する。
その顔は忘れもしないあの原チャリの男だった。
「コーヒー」
男は僕の顔を見ずに無愛想な声で言った。
「サイズは何にされますか?S、M、Lとございますが」
「S」
男は面倒くさそうに答える。
「ホットですか、それともアイスに」
僕が最後まで言い終わらないうちに「ホットだよ。っくせーな」男は舌打ちをした。
男が放り投げた小銭が僕の足元に転がる。
しゃがんでそれを拾い、顔をあげると男と目が合った。
男は僕を覚えてなかった。