カフェの人々
 

 笑ってもいい、幸せになってもいい。


 
 でもそれを僕の前でするな。




 僕は無意識にテーブルを拭いてまわった。

 心のどこかで男が僕に気づき、またあの時のように頭を下げて謝罪するのを期待していたのかも知れない。

 男は何度か僕のほうを見たがその表情が変わることはなかった。

 低い気圧と高い湿度のせいで傷が痛む。

 男の笑い声が響く。



 笑うな、笑うな、笑うな、僕の前でそんなふうに笑うな。


 見えないテーブルの汚れを何度も拭く。


 いくら拭いても誰にも見えない僕の心の傷は消えない。



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