カフェの人々
運転士の男


 こんな細い雨は嫌いだ。

 今はもう同じ路線は走ってないけど、この時期にあの日と同じような雨が降るとどうしても思い出してしまう。

 あの時のあの男の目。

 大きく見開かれたそれと目が合った気がする。

 いや合った、絶対に合った。

 遠くからだったのに男の白目の赤い血管まではっきりと見えた。

 僕は目を閉じるのと同時にブレーキをかけた。

 新人だった僕でも間に合わないのは分かっていた。

 目の裏に男の血走った目が焼きついて離れなかった。



 眠れない夜が続いた。

 夢に男が出てくるんだ。

 体重が六キロ落ちたとき、さすがに彼女が心配して僕を大学病院の心療内科に連れて行った。

 三分でPTSD心的外傷後ストレスと診断され睡眠薬をもらった。


< 30 / 50 >

この作品をシェア

pagetop