カフェの人々
電車に身を投げたのは二十八歳の男で中小企業に勤める営業マンだった。
どこにでもいそうなその男は、雨降りの月曜の朝、あまり人がしない選択をした。
都会の人身事故のニュースなど見慣れてしまった現代では、数時間もするといつもの日常がホームに戻ってくる。
雨があがり日差しが照りつけてきた。
まだ濡れたホームが乾かないうちに、人々は何事もなくさっきまで立ち入り禁止のテープが張られていた場所を踏みつけて行く。
署に戻る途中、駅員室の奥に若い運転士の姿を見たような気がした。
その横顔はまだ白くそれだけが事故の余韻を残していた。