カフェの人々
次に、勉強にいそしむ会社員の男は広げたテキストから顔をあげ、わずかに眉間に短い皺をつくる。
細めた目の先にはパソコンをテーブルに広げた新顔の男。
そのキーを叩く音が店内に響き渡る。
優しく滑らかにキーを叩くのではなく、親の敵のように激しくキーを叩きつける。
その力強い音は店内にそっとかかるジャズの音色を掻き消した。
継続的に鳴り響くキーの音を皆が無言であきらめかけた時、年老いた夫に連れ添う妻はちぎったクロワッサンを口に運ぼうとしてその手を止めた。
男が電話で話し始めたのだ。
ハンズフリーのイヤホンマイクをし、指先は激しくキーを叩きつけることを止めない。
その声の大きさはキーを叩く音どころではなかった。