君は今日も傘をささない。
毎日、学校と家とバイト先の本屋を往復する日々。
ただ何事もなく流れていく時間をもったいないと思いながらも、何をして時間を消費したらいいのかわからなくて結局いつも同じ日々を繰り返している。
高校を卒業して、自分がやりたいことをやるために大学まで進学したはずなのに、高校時代と何も変わらない日々。むしろ、高校時代のほうが充実した日々を送っていたようにも感じる。
いつから自分はこうなったんだろうか、いつからこんなダメな人間になってしまったんだろうか。そんなことを今日も考えてみたが、答えなんかでるわけがなくて、ただただ時間が過ぎていくだけだった。そうやって今日も休憩時間が終わる。
「安里さん、休憩上がり?」
「あ、はい。」
休憩が終わって早々、パートのおばちゃんに声をかけられた。
「ごめんね。これ時間あったらでいいんだけど、補充しといてくれない?」
数十冊の文庫本を乗せたブックトラックをおばちゃんが申し訳なさそうに指さす。
あぁ、そうか。もう六時だから勤務時間も終わりなのか。
時計をちらっと確認して、いいですよと返事をすればありがとうと満面の笑みで帰っていった。
「もう六時か。」
そんなことをつぶやきながらさっき預かったブックトラックを押して文庫コーナーへ向かう。
「いらっしゃいませ。」
入口付近のドアの前を通れば、ちょうどお客さんが入店してくるタイミングで決まり文句を投げかけると、そのお客さんは軽く会釈をして文庫のコーナーへと歩いて行った。
こちらの言葉に反応をくれる常連のお客さんの存在は嬉しくて、わりと記憶に残るもので、いつも会釈してくれる人だと内心で思いながら私も文庫コーナーへと向かった。
出版社別に分けられた文庫を50音順に並べていく。重複しているタイトルはストッカーに入れて、シリーズものなどで抜けている巻数があれば補充していく。ただそれだけの作業なのにまだ文庫タイトルに慣れないもので、普段任されているコミックスの補充よりも少し、時間がかかってしまった。
「あ、竜崎ー。みんなついたらしい。」
「あぁ、待って、ちょっと。」
「どうせあとでくるんだろ。ほらいくぞ。」
急かされる男性客が持っていた本を本棚に戻そうとしていたので、預かりますと声をかければ、さっきの常連のお客さんだったことに気付いた。
「あ、すいません。お願いします。」
申し訳なさそうに私に本を手渡し、友人らしき男性に急かすなよと愚痴をこぼしながら店を出て行った。
「…普通にいけめんだったなー。」
さっきのお客さんの声を頭の中でもう一度再生しながら時計をぼーっと見つめればもう8時前で、次がレジ担当であることを思い出して急いでバックルームへブックトラックを戻した。