影喰い
低く唸るような声色に変わる。
「……っ、」
怖がらせようとしているのは見え見えでも、まんまと固唾を飲んでしまうのは人間の本能なのだろうか。
思わず地面を踏み固めるように数度足踏みする。
「この屋敷はこの村一番の地主でな。皆からの信頼も厚かったらしい。それなのに当主による突然の一家心中が行われたんだって」
「へ、へぇ」
この家で、と全貌が見えないのに余裕ぶって建物の方に視線を投げて見せる。
「信頼が置かれていた当主は当然家族にとっても良い父親だった筈なのに、そんな父親に殺された母親、子供たちはどう思っただろうな?」
「そりゃあ……恨むんじゃないの?」
「そう、恨み。ここには恨みが渦巻いてるんだよ」
子供の、母親の、父親に殺された無念。怨恨。
「ずーっと昔の話なのに、今でも恨みは根強いってね!だから此処には生きている事が羨ましい幽霊が出るって専らの噂なんだよ!!」
「……って、おい!折角雰囲気だして話してんのに邪魔すんなよな~~」
「あははっ話長いんだって!」
「はは……」
唐突に軽快な声によって締めくくられて、妙な脱力感に襲われる。きっと、空気を張りつめて張りつめさせて、切ってやろうとしていただろう彼を思うと気の毒だが、ここには陽気な人間が多いのだから致し方ない事だろう。
邪魔された本人は大きくため息を吐き出して、屋敷の門をくぐリ始めた。
それに倣って他のメンバーも続く。私は最後尾に付こうとそれを待っていた。
特にそれに意味もなく、利点もない。強いて収穫をあげるなら、ふと周りを見たときに屋敷の隣に小さな神社がある事に漸く気づいた事くらいだろうか。
それだって何の意味もないけれど。