石田先生、天使になる⁉︎
「殺してやる‼︎」
鳴門大橋の上で泣き叫ぶのは、安西玲子さん。その手にはナイフが握られており、その刃先は交際相手に向けられている。
「こんな痴話喧嘩を止めるのも天使の仕事なわけ?それより、鳴門を近くで見ようよ」
「先生、それは無理です。ほら、今にも地獄に引きずり下ろされようとしているんです。その証拠に__」
僕は安西さんを挟んで、その向こうを指差した。
そこには__。
「なんだ、またあんた?いつ見てもダッサイわね」
そう鼻で笑うのは、艶やかなボンテージルックに身を包んだ妖しい女。私に敵いっこないんだから、と女は安西さんに近づいて耳打ちをする。
「あんな浮気男、早く刺し殺しちゃいなさいよ。どれだけひどいことされたか、忘れたわけじゃないでしょ?一思いに刺すのよ、一思いに」
これぞまさに、悪魔の囁き。
安西さんのナイフを持つ手に力が入る。
「ちょっと待って‼︎そんなことしちゃダメだ!辛いことばかりじゃない、楽しい思い出もあったはずだ‼︎」
僕が懸命に訴えると、安西さんの顔が少し優しくなった。
「バカね‼︎騙されちゃダメ‼︎辛いことのほうが多かった。どれだけ信じては裏切られたか、どれだけ苦しめられたか、思い出すのよ‼︎」
やはり同性だからか、悪魔の囁きに分があるようだ。
こ、このままなら、地獄に連れていかれてしまう‼︎