石田先生、天使になる⁉︎
「どうもすみませんでした、お力になれなくて」
サッちゃんが丁寧に頭を下げる。
「とんでもない。貴重な経験をさせてもらいました」
一歩間違えばトラウマになろう、ゆるキャラコンテスト。
優勝は結局、天使の格好をしたハスキーボイスの「翼が折れたエンジェルちゃん」だったが、ある意味では強烈なインパクトを残し、ただただ穏やかな天国会にも風穴を開けられたのではないかと思う。
「そう思うなら川村くん、サッちゃん返してやってくれないかな?」
「いや、それはちょっと__」
「だってサッちゃん、まだ新婚だよ?なんかこう、裏技的なやつがあるんじゃないの?」
いつになく殊勝に頼み込んでくる、石田先生。
確かにサッちゃんにはお世話になったし、僕も出来ることなら返してあげたい。実は手はないことはない。
でもそれって__。
僕は先生にだけ、とっておきの秘策を耳打ちした。
それを聞けばきっと、先生も諦めるんじゃないか?
そう思ったからだが__。
「なんだ、そんなことか。ならいいよ。早く戻してあげて」
「本当にいいんですか?」
「いいよ。サッちゃん、旦那さんのところに戻りなさい。君はまだこっちに来るには早過ぎるから」
「でも先生__」
「いや、いいんだ。ここはカッコつけさせてくれないか?僕はもう議員じゃない。この天国で、秘書なんて必要ないのさ」
フッと、甘めの息を吐いた先生。
しかし。
「あの、もうかなり向こうに行きましたけど?」
それこそゴマ粒にしか見えないくらい、サッさと(サッちゃんだけに)行ってしまった。それでも大きく手を振っているのが分かる。
だから僕も、先生と一緒に手を振った。
でもどちらかというとそれは、目の前の先生に向けてだったのかもしれない__。
「わん‼︎」