石田先生、天使になる⁉︎
「先生の訪問なんて、羽毛布団を買わされるより悪質ですからね。居るはずのない白アリ駆除のほうがまだマシです」
「また随分はっきり言うね。天国から戻してあげたじゃないの」
「それを言うなら、議員時代からの私の功績のほうがお釣りが頂けるくらいですけど?」
そうは言いながらも、家の中に招き入れてくれた。
でもそれは、半蔵が居たからだ。
むんぎゅ‼︎と抱き締めて頬擦りしているサッちゃんさんだが、いざ半蔵が事の成り行きを喋り始めても、さほど驚かなかった。
その代わりに。
「だと思った。私は人間が化けてるんだと思ってましたけど、もう犬のくせに表情があるんですよ。それも哀愁を漂わせたら選手権ならNo.1決定ですし」
「さすが動じないね」
「先生には鍛えられましたから」
サッちゃんが僕に向かってウインクした。お互い、気苦労が絶えないわね、と。
「でもだからといって私がそんな危険な戦いに同行するなんて」
「これで勘弁してくれないかな?」
「なんですか、これ?」
「きびだんご的なやつ。鬼退治感覚でさ」
「先生、1つよろしいですか?水カンも歌ってるように__きびだんごで鬼退治なんて正気じゃないんですよ。今時、割に合いません」
「そう言うと思ってほら、ちゃんと買ってきたから」
取り出したるは、シックな包装紙の箱。
「こ、これってもしや?」
「そう、九弦堂のザッハトルテ。駅前に出店したり、移動カフェで売り出した2代目だったけど、手広くやり過ぎてお店の名を汚した。そこで先代が本店のみでしか販売しなくなった、まさにプレミアムザッハトルテだよ。川村くんが3時から並んだから」
「3時には誰も居ませんでし__」
「行きます‼︎」
サッちゃんは勢いよく立ち上がった。
その唇は、すでにチョコレートで汚れている。
恐るべしザッハトルテ‼︎